「日本漢方」の特徴

 吉益東洞という江戸時代の漢方医が「見えないものは言わない」を貫いたように、陰陽五行論や現代中医学などの理論的説明や解釈を日本漢方は避けます。腹診や経験から処方を導き出して「論より証拠」を重んじるので、師匠なしには習得しにくいと言われています。 

 「説明しない」を貫くことは意外に困難で、熟練した漢方医であっても日本漢方と理論的な中医学との間で揺れ動くことがあるようです。患者さんからすれば「あなたにはこれが良い」とだけ言われても不安でしょうが、解釈や理論的説明には嘘が入り込むことを懸念しての日本漢方の伝統です。

 例えば、五臓理論では「芍薬には酸味があって収斂作用をもつ」と理論構築されていますが、実際に芍薬に酸味を感じる人はいません。「月経周期と陰陽」でも現実と異なる仮想理論が展開されており、当院では月経周期の高温期・低温期によって漢方薬を使い分ける周期療法も行いません。「ありのまま・見えたまま」を漢方に反映させたいと考えています。

参考文献

・『吉益東洞の研究』寺澤捷年、岩波書店
・『吉益東洞の言葉と禅の言葉の類似性について』萬谷直樹、漢方の臨床2015;62:1981-1988
・『芍薬の酸味は幻か』萬谷直樹、日東医誌2018;69:52-56
・『Reexamination of the Relation Between Menstrual Cycle and Kampo Diagnosis,  Yin-Yang』 Mantani N.  Am J of Chin Med, 2003, 31, 137-140.