季節の漢方 .1

第1回「ウイルスと漢方」

 日頃から漢方薬を使って診療していますが、「季節にあわせて漢方を衣替えしていきます」とお話すると驚かれることがあります。診察ではゆっくり漢方のおはなしをする時間がありませんので、このブログを通して漢方の話題を少しずつご紹介していきたいと思います。

 第1回は、インフルエンザやコロナウイルスのお話しです。従来のコロナウイルスでは、感染しても「普通の風邪」で済みます。SARSやMERSもコロナウイルスの仲間で、「新型コロナ」もコロナウイルスが変異したものです。

 ウイルスは、細菌よりも「変異」しやすい性質があります。インフルエンザのワクチンも、その年の「流行株」にあわせて作られています。1918年から大流行した「スペイン風邪」も大きく変異した年のインフルエンザウイルス(H1N1)によるもので、今の新型コロナよりも被害が大きかったようですが、いま散発的に流行するインフルエンザはおとなしい株が流行しています。

 一般にウイルスは「小さな変異」をくりかえして弱くなっていくのがふつうです。何十年間もヒトを大量に殺し続けたウイルスは過去に存在しません。「新型コロナ」も早くおとなしくなってほしいものです。

 葛根湯は2000年以上むかしから風邪やインフルエンザのような病状に使われてきました。それらの原因ウイルスは現在までに何度何度も「変異」しましたが、葛根湯は今も効き続けています。インフルエンザへの葛根湯の作用メカニズムは一部が解明されており、葛根湯のなかの「桂枝と麻黄」が感染防御のために細胞に作用する作用点は各々異なることがわかってきました(文献1,2)。漢方薬がもつ多面性は、こんなところにも象徴的に表現されています。

(文献1、Mantani Nほか、Antiviral Res. 44 : 193-200, 1999)
(文献2、Mantani Nほか、Planta Med 67: 240-243, 2001)